一番星、黒猫、および、僕

その日、僕は黒猫と一緒に、とぼとぼと日暮れ時の道を歩いていた。
いつもの駐車場をショートカットする道だ。

  ・・・

「一番星。」

僕は、一番星を見つけて、しばらく立ち止まっていた。

「あんなに近く見えるけど、本当はすっごい遠いところにあるんだぜ。」

黒猫は退屈そうに前足を舐めながらそう言った。

「うん、しってる。」

「宝石と違って掌に載せたりすることもできないんだ。」

「うん、それもしってる。」

「じゃあ、なんでそんなに嬉しそうにしているんだい?」

  ・・・

黒猫はしばらくじっとしていたけど、駐車場の隣の石垣を駆け上がって垣根の向こうに消えていった。垣根をくぐるとき、ちら、とこちらを見たけど、何も言わずにそのまま帰っていった。
まだ、僕は一人でじっとしていた。

「あんたの人生だ。あんたの好きにするがいいさ。」

黒猫がどこかでそう言ってるような気がした。

  ・・・

「僕は一番星を見つけたことが嬉しいんだよ。」

僕は、荷物を持って歩き始めることにした。
僕にだってまだできることはあるさ。
君だってそう思うだろう?

僕はダウンのジッパーを一番上まで上げて、急に冷たくなった風が入らないようにして早足で歩いた。

空はどんどん暗くなり、一番星はもっとはっきり見えるようになった。

二番目の星はまだ見えない。

 

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